幸せになるために
ま、多分それはあずまさんの素晴らしい作品を鑑賞させていただいて、目の保養ができたからだと思うんだけどね。


「そうですか…。でも、何かあったら、すぐに言って下さいね」

「うん、ありがとう」

「あ、そうだ。それともう一つ」

「ん?」

「比企さんの勤めてる図書館て、どちらなんですか?」

「ああ…」


そういえば、話の中にその事は出て来てなかったよね。


「事故物件でも良いと思えるって事は、それだけ職場が近距離で通勤に便利だからですよね?ここから近い図書館となると、まず中央図書館がありますけど…」

「ううん。そっちじゃなくて、より駅に近い方なんですけど…。ここからだと徒歩で10分くらいの」

「ああ、あっちですか」


あずまさんはハイハイ、という感じで頷いた。


「えっと…。そこに何年くらい勤めてるんですか?」

「大学卒業後、新卒で入ったから6年目ですね。採用されてから配属が決まるんじゃなくて、「この図書館で働きたい人集まれ~」って感じで募集がかけられるから、一度配属されたら委託を任されている限りはずっとその図書館に勤められるんだ。会社から打診されたり自分が希望を出して他所に移る場合もあるけどね」

「そうなんですか。じゃあ、俺がここに住み始めたのと同じタイミングだったんですね」


そこであずまさんは右手を顎に添え、しばし何やら考え込んだあと言葉を発した。


「約6年間で数回、図書館を利用しましけど、その時に比企さんがいたかどうかは覚えてないな」

「ん~。1日中窓口担当って訳じゃないから、見かけなくても別に不思議ではないですよ。それに、そもそも数回しか来館してないんだから、そりゃ図書館で働いてる人の顔なんて覚えられないでしょ」

「いや俺、小説の挿し絵を担当しておきながら何なんですけど、普段本って全然読まないんですよ。活字ってやつが、どうにもこうにも苦手で……」


別にこれっぽっちも責めちゃいないのに、何やら勘違いしたらしく、あずまさんは慌てて弁解した。


「絵が多目に載ってる…例えば画集なんかは見るのが大好きなんですけど、そういうのは本屋で自腹で買ってしまうし」

「ああ、うん。もし図書館に同じ資料があったとしても、自分の物にはできないもんね」
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