幸せになるために
「あ、そうだ。洗濯物取り込まなきゃ」


ドアを開け、玄関に入った所でハタとその事を思い出す。

下駄箱の上の壁に取り付けてあるキーラックに部屋の鍵をぶら下げると、そのまま洗面所に向かった。

手を洗ってから、ランドリーラックに収納してあるプラスチックの洗濯カゴを持ち上げ、リビングへと移動する。

その格好だと動き辛いと思い、ポッケから財布とケータイを取り出してテーブルの上に置いてから、ジャケットを脱ぎ、ひとまずソファーの背もたれにかけた。

掃き出し窓まで歩を進め、サッシを開けた瞬間、冷たい風が吹き抜ける。


「うっ。やっぱ、上着を着てないと寒いわー」


11月も下旬だもんなー。

首筋を撫でた冷気に思わず肩をすくめながら、ベランダに出て、物干し竿やランドリーハンガーから手早く洗濯物を外し、洗濯カゴの中に投げ入れた。

一刻も早くその場を去りたかったから。

手すりに干した布団もリビングの床に放り投げるようにして置き、急いで室内に入ると、勢いよく窓を閉めた。

施錠まで完了した所で、思わずホッと一息。


「今のうち点けとくか…」


呟きながら、ソファーから数10センチ離して置いてある電気ストーブに近付き、本体上部に手を伸ばす。


「スイッチ、オン!」


号令をかけながらツマミをカチカチ、と回した。

先ほどまであずまさんと一緒にいたから、一人でこの部屋に戻った事が何だか妙に寂しくて、景気づけとして取った行動だったんだけど、何だかさらに冷たい空気に包まれたような気がする。

ちなみに、オレの部屋の暖房器具はこれ一個。

エアコンは本体が高い上に電気代も怖いので、最初から設置していない。

電気ストーブだと広範囲には暖まらないけど、持ち運びは簡単だから、自分の動きに合わせて移動させれば良いしね。

ホントはこのままソファーに腰かけて暖を取りたい所だけど、まだまだやらなくてはいけない事が残っている。


「まずは、布団のカバーかけからだな」


これが結構面倒なんだよね~。

しかし、やらない訳にもいかないので、オレは自分を叱咤激励しつつ布団に近付くと、持ち運びしやすいように形を整えた。

次いでカゴの中からカバー類をピックアップして布団の上に乗せると、まとめて「よいせ」と抱え上げ、寝室まで運ぶ。
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