私の家のお隣さん。
読み始めて、驚いた。
今まで、こんな綺麗に情景の描かれた本を読んだ事があっただろうか。
繊細に紡がれた言葉たち。
人間について鋭い目線で描かれたテーマ。
どれもがわたしの心にズシンと響いて。
心が動いた。
ただ、うっとりとするだけじゃなくて、
ただ、悲しくなるわけでもなくて、
ただ、虚しくなるだけじゃなくて。
不思議な感覚だった。
絶望と同時に希望、悲しみと同時に喜びを与えてくれる本だった。
「うわあ」
読み終わったあとに、自分に鳥肌が立っているのに気がついて、立ち読みで読み切るつもりはなかったからさらに驚いた。
自分がこんなに夢中になるものに出会えるなんて思ってなかった。
いてもたってもいられなくなって、そこに置いてある横溝ツヨシの全ての本を購入した。
それだけじゃ気が収まらなくて、走ってアパートに戻り、隣の部屋のインターフォンを連打した。
「なに…」
少し開けられたドアから中に入り込み、出てきた人の手を握ってブンブン振る。
「よ、読みました!!すごくよかったです!」
私のあまりの勢いに気圧されたのか、彼は少し引き気味に、
「玄関先じゃあれだし、とにかく入って」
と促した。