御劔 光の風3
「主。」

祷(いのり)、そう呼びたくても日向は呼吸をするのに精一杯で声をだすことが出来なかった。

何とか片目を開けて視線だけを送る。

「大分火の力を使えるようになりましたね。」

祷の言葉に日向は反応することが出来なかった。ただ呼吸は安定を求めて大きく胸を揺らす。

「さすがの素質です。あと少しで私を操る事も出来ますよ。」

日向はゆっくりと祷の方へ手を伸ばした。

呼吸は少しずつ落ち着きを取り戻し始めている。

「いの…り…っ。」

かすれた声が祷に届く、日向はぎりぎりの体力を使い苦痛の表情を崩して微笑んだ。

「大丈夫…やれるから。頑張るから…そんな顔しないで?」

日向の言葉に祷は時を止めた。

恐る恐る手を自分の顔もとに置いて気が付く。

強ばった表情、引きつったままの自分の顔に気付かされ恥ずかしくなり口を覆い目を逸らす。

日向はそんな彼女を見て、また微笑んだ。

「申し訳ありません。ありがとう、ございます。」

祷の笑顔を確認すると日向は重たい体をゆっくり起こした。

「時間がないんだよね。何に追われているか僕には分かんないけど…今の内に力を身に付けておかないと僕がやばいんだよね。」

「はい。」

足を投げ出したまま両手で身体を支える日向の息はまだ上がっている。

< 317 / 729 >

この作品をシェア

pagetop