御劔 光の風3
「気を失っています。脈は…弱いそうですが。」

苦々しい表情で紡いだ言葉は後悔と不安を含んでいた。何となく状況を掴めたカルサは確認の為にエプレットに問いかける。

「エプレット、光玉を使ったな?」

「…はい。ここに同僚がいるんです。彼がもう息を引き取りそうになって、何とか引き止めようと無我夢中に叫んでいたら。」

「光玉が発動したのか。」

エプレットは頷いた。

「私よりもタルッシュの方に負担がかかってしまいました。光玉が光り…その力を発動させようとした時にタルッシュに取られたんです。私の身代わりになってくれたのだと思います。使い方はリュナさんの風玉を見て知っていましたから。」

そう言うとエプレットは横にいるタルッシュに目を向ける。カルサも同じ様にタルッシュの様子を窺うと背後から声がかかり横を通り過ぎる姿が映った。

毛布を抱えた治療師がタルッシュの横に付き彼の為の寝床を用意し始めたことにより、彼の休むベッドがないと気付かされた。光玉が発動し幾多の患者が回復したとはいえ、すぐに彼らを動かせる訳でもないのだ。

奇跡の混乱の中にありながらも治療師や医師たちは懸命に一人一人の診断を行っていく。

横たわったタルッシュの様子はやはり思わしくないようだった、あまりの顔色の悪さに見兼ねたカルサは彼の手を取り回復魔法をかけ始める。それに気付いた千羅はカルサの横で屈み、カルサの手からタルッシュを離し自分の手の上に乗せた。そしてカルサに代わり千羅が回復魔法をかけ始めたのだ。

「回復魔法は私の方が適任です。」

「悪い。」

千羅が首を横に振ったのを確認すると、カルサは再びタルッシュの様子を伺った。そしてエプレットの方にも心配そうな瞳を向ける、カルサのあまりにも心配そうな顔にエプレットは申し訳ないよりも嬉しさの方が大きく感じられた。その為か自然と笑みがこぼれる。

「大丈夫です。」

タルッシュの気持ちも合わせて二人に向けた言葉は思いのほか伝わったようだ。自分の力以上の働きをしてしまい疲れ果てているだけ、体力が戻れば大丈夫だろうということを彼自身も、カルサたちも分かっていた。

< 400 / 729 >

この作品をシェア

pagetop