御劔 光の風3
一同の表情が一気に変わった。まるで深い闇の中、一筋の光を見つけたかのように強い希望を感じたのだ。

「どういう事だ?」

「魔物とサルスの意思は別って事か!?」

カルサに続いて貴未も前に出た。二人とも思いは同じなのだろう、ただ一心にナルに答えを求める。

「おそらくだけど…サルスは戦っている。あの子を見た時に一瞬過った景色があったの。あの子は激しく戦い泣き叫んでいた。」

組まれた手に力が入ったのは無意識のことだろう。ナルの目は記憶を呼び起こすために特に意味もない場所を睨んでいたが、すぐにそれはカルサの方へと向き直った。

カルサと貴未が同じタイミングで一歩前に踏み込む。二人の感情は同じだった。

「でもそれが何を示すのか、いつのものかも分からない。これは私の希望でもあるの。」

貴未が頷く。

「それは俺たちの希望でもあるよ、ナル。可能性があるなら賭けたい。だろ?」

貴未はカルサに同意を求めた。カルサも頷いて手紙を握りしめる。分からないところは自分で確かめればいい、今はこの状況を教えてくれたナルに感謝したいところだった。

「ナル、ありがとう。」

意外にも前向きな姿勢にナルは少し目を丸くしたが直ぐに受け入れる。微笑みを返したことでカルサにその思いは伝わった。

「この手紙、わざと書きかけの様にしたのは、こうなる事を知っていたからか?」

手紙の末尾、名前も記さず、まるで書きかけて止めたかのようにインクが小さく紙に零れていた。意味深な演出は誰もが他に伝えたい何かを持っているからだとカルサは考えたのだ。

「私は見えた事を伝えただけ。でも貴方たちが先入観に捕われ過ぎないようにしたかった。ただそれだけよ。」

ナルはいつものように穏やかに優しく諭しながら答えた。もうすぐ別れがくる、そんな時に改めて実感することがあった。

彼女は母だったと思う。

自分の、そしてこの国の母だった。ナルがいなくなるなんて想像ができない。いつも優しく微笑んでくれるナルに誰もが救われていたのだ。

失いたくない。認めたくなかった。

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