御劔 光の風3
何かの聞き間違いか、それでも目の前のカルサは真剣な顔付きをしている。カルサは決して冗談を言っている訳ではないと嫌でも伝わってきた。

「…何言って。」

カルサの真意が分からず口を開いたが不意に何かを感じ、貴未は鼻で笑った後に表情を隠すよう手で顔を覆って隠した。少し長めのため息は震えている。

「なんでいつも…腹が立つ。」

貴未の言葉に驚き表情を変えたが、その真意を感じカルサは穏やかに微笑んだ。また自分の為に怒ってくれている、貴未の気持ちが嬉しかったのだ。

やがて手を下ろし再び向き合った貴未は覚悟を決めた面持ちでカルサに口を開いた。

「付き合うよ。」

声にも目にも強い意志と力を感じてカルサは切なそうに微笑む。

「国を壊したいんだったら、手伝ってやる。どこまでも付き合ってやるよ。」

彼の思いを大切に受けとめ、カルサは小さく何度も頷くことで答えた。窓の外を見上げれば国旗が風に揺れているのが見える。

「俺たちの国だ。」

昔よくそう言っては誇らしげな気持ちで旗を眺めていたことを思い出した。

王族しか使えないあの部屋で、まだカルサの両親もサルスの父親も生きていた頃から二人でよく眺めていた誇り。あの頃の誓いは様々な状況が変わっていく中でも何度も繰り返し二人で唱えてきた。

時に笑いながら、時に泣きながら、そして噛みしめながら。

いつからかその誓いを自分が果たせない苦みを含んで見つめてきた未来に今、自分が立っていることになる。サルスを一人にしてしまう、そのことが気がかりでならなかった。

国を出る自分も近い内に一人になるだろう、しかし傍目からはそう見えない筈だ。カルサは貴重な戦力を引き連れて出て行ってしまう、それが正しい捉え方になると考える。きっとそうなる。

世に残る自分の名前がどれだけ怪我されたものになろうとカルサはどうでもよかった。

後に引き継ぐものを残していない、それだけが救いだ。だから世継ぎも必要なかったのだ。誰もカルサ・トルナスという名に縛られることなく生きていけるだろう。

「どうせ壊すんだったらもっと好き勝手やりゃ良かったのに。」

「好き勝手?」

「嫁貰って子供作って皆でトンズラとか。」

「阿呆。」

貴未の突拍子もない発言にカルサは心底感心して笑った。どこをどう考えればそんな風になるのだろうか、カルサからは絶対に生まれない考えにいつも感心させられる。

「いい嫁候補がいたのにな。」

そう言って貴未も国旗を見つめて目を細めた。

「行こう。」

先に歩き出したのはカルサだった。

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