君の『好き』【完】

 海くん





最寄駅に着き、電車を降りた。




学校のある駅とは、正反対の、


小さな小さな古い駅。





2台しかない改札を通ると、腕時計を見た。




4時か.....



本当はもう少し一緒にいたかったな.....





そう思いながら家へと歩いた。



駅から家まで歩いて10分ぐらい。






「宇崎?」




歩き出してすぐに名前を呼ばれて振り向くと、




近所に住む、渡瀬 海(わたせ うみ)くんが、


東高校の制服を着て、剣道の黒い防具袋を右肩に、左肩には黒い竹刀袋をかけて立っていた。





「海くん」





海くんは防具袋を重たそうに肩にかけ直すと、


私のところまで歩いてきた。





「家帰んの?」




「うん。海くんは?部活の帰り?」




「うん。明日大会だからさ。


防具持って帰ってきた」




海くんは、ははっと可愛く笑った。



海くんって、ほんと女の子みたい。




中学1年の2学期に近所に引っ越してきた海くん。



初めて会った時、男子なのに、かわいい子だなって思った。





さらさらとした柔らかそうな栗色の髪。


長めの前髪が大きな瞳にかかっていて、



いつも黒目をうるうるさせながら、かわいく笑っている。



そう、海くんっていつも笑ってる。




背は私よりも高いけど、そんなに高くもないし、



華奢だし。






「転校生は、かわいい系男子だ」って、みんな「うみくん、うみくん」って、



可愛がっていたけど、





でも、







初めて剣道をしている姿を見てびっくりした。




小さくて、女の子みたいなのに、




道着を着ると、別人のように男らしく強い剣士になる。




中学の頃、同じ剣道部だった私。



みんな1年生は初心者ばかりだったから、



小さい頃から剣道をやっていた海くんが入部してきて、


みんな大喜びだった。




同学年や先輩からは、可愛がられていたけど、



学年が上がって行くごとに、海くんは後輩の女子たちから大人気となった。





そういえば、卒業式の時、学ランのボタン全部なくなってたな......





「どうした?なんか元気ないじゃん」





「えっ?」











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