ツンデレくんをくれ!
息を飲み込んで、中出の唇に自分の唇を寄せる。


中出の息遣いが聞こえて…………


「奈子さん、これ、キス?」


あたしが口を塞ぐ前に、中出が口を開いた。


「おいこら、ここは黙って最後まで受け入れろよ」


あたしはむっとして、内心心臓ばくばくしながら、それでも中出との距離はそのままに口を開いた。


これを逃したら、あたしはきっと中出に思いを伝えられないと思った。


「いや、だって、不意打ちでやられるのってなんか悔しいし」

「お前の意向なんか知るか。黙ってキスされろ」

「……俺のこと、好きなんけ?」

「好きだからこんなことしてんだけど」


中出はここで不意打ちを食らったらしい。


自分で聞いたくせに。


至近距離で目をしばたたかせられては、行動しない手はない。


あたしは無理やり中出の唇を奪った。


初めて触れた男の唇は、少しだけかさついていたけど温かくてびっくりするほど柔らかかった。


初めて中出の温もりに触れた気がしてなんだか涙が出そうになった。


この温もりも、離したくないのに。


唯一触れた温もりにずっと触れていたかった。


少し触れた後、あたしは回れ右をして急ぎ足で部室を出た。


ヒールが高いパンプスを履いていたのに、全速力で帰った。


その間頭にあったのは、キスをしてしまったという事実だけだった。


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