ときめきに死す

 柔らかそうな頬を上気させ、少女は云った。

「うちは君の家じゃないのだけれど」
「あら、わたしは加賀美くんちのおやつが食べたいのよ」
「うちは喫茶店でもないよ」
「知ってるわ。本屋さんでしょう?」
「僕の家業を把握していてくれて嬉しいよ」
「どういたしまして」

 皮肉も通じない。
 縁の笑顔に、私は深く溜め息を吐いた。

 私の家業は本屋である。
 チェーン店でない、この頃数の少なくなった町の書店だ。新書も扱っているが、古書の方が多い。実際客の殆どが古書目当てにやって来る。と云っても寂れた書店であるから、店内に客の姿はほぼない。
 それなのに、

 いつの間にか、少女は居る。

 店内から客が消えると何処からともなく現れて、茶だの菓子だのを要求する。そしていいだけ寛ぎ、本を一冊求めて嵐のように去っていく。
 否、嵐と云うより猫と云うほうが的確か。気が向いたときにやって来て、飽きるとそっぽを向いて出ていく。
 けれど、野良猫と云うには彼女は美しすぎた。
 容貌だけではない。
 身に纏う衣服すら、豪奢で突飛なのだ。

 フリルがたっぷりあしらわれた、ランプの傘のように膨らんだスカート。丸い大きな襟のブラウス。襟元を飾るリボン。
 少女趣味を絵に描いたような出で立ち。
 その色彩は淡く、それでいて華やかなものだ。

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