やくたたずの恋
 足下にある崖の縁。そこにかかとが引っかかるのを感じ、雛子はすぐにその答えを言うことはできなかった。
 でも、言わない訳にはいかない。これは雛子に課せられた、重大な任務なのだ。
 本当ならば、写真の中にいる「恭平さん」に言いたかった。だけど、その人は「みにくいアヒルの子」とは反対の、「美しい白鳥の子」だったのだ。白鳥だと思ったら、アヒルだったのだ。惜しい! 残念でした!
 ……いや、そんな感じではない。ショック! とか、ギャフン! とか、そんな言葉がふさわしい状況だ。
 恭平の視線が更に鋭くなり、雛子に突き刺さる。その痛みに耐えながら、雛子は与えられた任務を果たそうと、体を絞り、声を上げた。
「きょ、恭平さんに、わ、私と、結婚してほしいんです!」
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