やくたたずの恋
13.恋せよ、乙女。(後編)
 寝覚めが悪いのは、あの時の夢を久々に見てしまったからだろう。志帆が泣き叫ぶ、あの時の夢だ。
 それは昨日、あの「ヒヨコ」が泣くのを目の当たりにしたせいだろうか? いや、それはない。絶対に違う。あり得ない。カエルが「寿限無」を唱える方が、よっぽどあり得る話だ。
 悪夢を洗い流すようにシャワーを浴びた恭平は、寝起きの顔を鏡に映す。今のところ、あのチビデブハゲの父親には似ていない。
 あの三重苦オヤジの遺伝子が、自分に入っているのは確かなのだ。ならば、いつそれが発芽するのか。それにいちいちハラハラしなくてはいけない自分が嫌だった。
 鏡に向かったままで、母親似の顔に生えた髭を整え、髪をセットし終える。スーツに着替えて、リビングで朝食代わりのコーヒーを啜れば、時計は9時20分。もう少しで、悦子が車で迎えに来る。
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