やくたたずの恋
14.ヒヨコ、小悪魔になる。(前編)
 雛子がベッドで突っ伏して泣いていた、昨日の夜。暗く濁った彼女の部屋は、固い殻に覆われた、悲しみのシェルターと化していた。
 そこからの孵化を促すように、ノックが連続して3回響く。続けて、心配の様子を声の端々に漂わせ、雛子の母が問いかけた。
「雛子、ご飯も食べずにどうしたの?」
「何でもない! お腹がすいてないだけだから!」
 強がりと言い訳を混じらせるのと同時に、雛子のお腹が、ぐぅ、と音を立てる。敦也のお供でパーティーには行ったものの、雛子自身はほとんど食事に口を付けなかったため、空腹だったのだ。
 だけど涙に濡れた顔では、母の前には出たくない。出る訳にはいかない。恭平との結婚のことで、母を心配させたくはないのだ。雛子は足をバタつかせて布団を叩き、腹の音を打ち消そうとした。
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