やくたたずの恋
21.美女と、老人。(中編)
 壁も天井も床も、上下左右の全てが真っ白。志帆の家の中は、病院や教会のように、穢れを嫌う雰囲気で満たされていた。
 バージンロードに似た真っ直ぐな廊下を、雛子は志帆について歩いていく。一階の奥にある部屋の前に着くと、志帆は立ち止まり、美しく巻かれた髪を揺らして振り返った。
「こちらに主人がいるの。どうぞ中へ入って、お話をしてあげて」
「はい。分かりました」
 志帆がノックをして、木製のドアを重たげに開ける。その先へと、志帆は視線で雛子を誘った。
「失礼します」
 一礼をして、部屋を見る。ハレーションを起こしたかのように、白んだ世界。目を細めて中へと入れば、自分の存在までもが漂白されそうになる。
 白さの中で際立っている、ブラウンで統一された設え。ベッドや本棚、小振りな机……などなど。それらを目で追っていけば、部屋の中央で引っかかる。そこでは、老人が一人、車椅子に座っていたのだ。
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