やくたたずの恋
41.さらば、おっさん。(中編)
 おかしい。真夏に桜が咲くよりも、犬が「ニャー」と鳴くよりも、おかしい。これは天変地異か何かの前触れだろうか?
 悦子は『Office Camellia』の事務室の壁に凭れ、椅子に腰掛ける恭平を横目で捉えていた。
 彼の前にあるデスクには、グラビア雑誌がいくつか並んでいる。恭平は毎朝出勤すると、雑誌に目を通して「巨乳チェック」を始めるのだ。形、肌の色、バランス。トータルにバランスの取れた巨乳を見つけては付箋をつける、という、どうしようもない日課だ。
 だが、ここ3日間、雑誌を開こうともしない。巨乳好きの恭平が、巨乳のオンパレードのグラビアに、全く興味を示さないのだ。
 その上、何だか「心、ここにあらず」の状態だ。とりあえず仕事に支障はないものの、ふと彼を見れば、物思いにふけるようにしていることが多かった。
 そしてもう一つ、おかしなことがある。3日前から、雛子が出勤して来ないのだ。その訳を知っているか、と恭平に尋ねても、「あー」「んー」と、赤ん坊のような声しか返ってこない。
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