やくたたずの恋
42.さらば、おっさん。(後編)
 赤い外壁に、鋭角的な出窓。そこを縁取る黒い窓枠。「KAGEYAMA」と金色で刻印された社名。久々に見ても、悪趣味と滑稽さの頂点に存在するようなビルだ。
 設計者がかなり泥酔していたのか、それともガウディとピカソが喧嘩してデザインしたのか。そのどちらかでなければ、こんな建築はそう作れない。
 ビルを見上げていた恭平は、心を落ち着かせるように息を吐き出すと、12年ぶりにビルの正面ドアをくぐった。
 受付をスルーして、慣れた足取りで奥へと進む。乗り込んだエレベーターでは、最上階である12階のボタンを押し、増え続ける階数表示を見つめていた。
 停止したエレベーターから降り、通路を右へと進めば、秘書課で働く女性たちの姿が見える。その中の一人が恭平の姿に気づいたようで、すぐさま駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ。何かご用でしょうか?」
 乱れのないまとめ髪に、戦闘服のような紺のスーツ。おそらく秘書課のリーダーだろう。女は理性の塊のような微笑みを、真っ直ぐに恭平へと向ける。「こいつは何者だ?」という警戒心を潜ませながら。
 ならば、と恭平もお返しに、「君はCカップだね。合格!」と目を細める。
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