やくたたずの恋
44.やくたたずだって、役に立つ。(後編)
「返済しては、すぐに借りる。そんな融資を繰り返される方は、何らかの深い事情を抱えていらっしゃるものです。もしかして横田先生も、そうなのではありませんか?」
 恭平が獣の目で、雛子の父を追い詰める。一歩、また一歩。その度に、会場の温度も1度ずつ下がり、空気が張り詰めていく。
「選挙も近いことですし、さぞかしお金が必要なんでしょう。そして……」
 雛子の父へと覆い被さるように体を寄せた恭平は、悪魔の囁きを顔に吹きかける。
「先生が六本木に購入されたマンション、あそこには先生のお知り合いの女性がお住まいのようですね」
 瞬間、雛子の父がヒッ、と小さく呻いたのを、恭平は聞き逃さなかった。
 バカな父親だ。愛人のために作った借金の返済を、娘をカタにして行っていたとは。恭平はため息を漏らし、更に目の力を強めていく。
「……まぁ、とにかくこちらとしては、全額を即時返済いただきたいんです。今すぐに!」
「な、何を言っているんだ! 返済期限はまだじゃないか!」
 叫んだ雛子の父は、ディズニーアニメの悪役のように顔を歪め、体を拉げていた。ヒーローによって成敗されるまでのカウントダウン。それが聞こえていることに、怯えているのだ。そんな哀れな男にも、恭平は容赦をしなかった。
「確かにそうなんですけど、俺、気が短いんですよ。さっさと返してほしいなー、って思っちゃいましてね。もし、お金がない、とおっしゃるのであれば、この金額相当のものをいただいて帰るしかないですねぇ」
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