やくたたずの恋
「だから本来なら、そんな男たちが好む、顔も体もゴージャスな女しか雇わないんだ。だけどな、お嬢ちゃんは出血特別大サービスだ」
「あ、あの、でも……そんな仕事をしろと言われましても……」
 私、男性と付き合ったこともないんですけど……。
 そう言いたいのに、声が出ない。
 雛子にとっての「男」というものは、父や祖父といった親戚の人々。プラス、父の秘書や後援会の人々だけだ。
 そんな自分に、見知らぬ男性と一緒に過ごすなど、できるはずもない。一時間六万円も取れるはずもない。取ったとしても、それは「ぼったくり」レベルになってしまう。
 ……どうしよう。断りたくても、自分から言い出したことを、翻す訳にもいかない。恭平の茶色い瞳に映る自分を見ながら、雛子は硬直していた。
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