やくたたずの恋
 熱い。雛子はまず、そう思った。これがファーストキスなのに、といった絶望感や、おっさんにキスをされている嫌悪感よりも、恭平の唇の温度を先に感じている。
 ……い、いや、そんなことよりも! おっさんをどうにかしないと!
 雛子はこの状況から逃れようと、顔をぶんぶんと振りまくる。だが恭平は彼女の顔を押さえ、更に口づけを深くしようとしていた。
 引き締められた彼女の唇を舌先で撫で、宥めつつ開かせる。彼の舌が中へと入ってきた瞬間、雛子は前歯でそれを噛んだ。
「痛ってぇ!」
 唇が離れ、恭平が上体を起こす。その隙を狙って、雛子はソファから転げるように降りた。
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