ラヴィ~四神神葬~

2節

 そこでは季節が巡らない。
 そこに夏はない。
 ここは「白」に管理された無機質な空間だ。

 彼の腕の中には、真紅の花束―。

 むせ返る薔薇の香りは人工の涼風にかき消えた。
 室温と湿度を人が快適であると感じる数値に設定された環境下では、陽光の熱も薄弱なガラスに遮断されてしまったかのような錯覚に陥る。
 鼻孔を突く、微かなアルコール臭。
 硬質の靴音だけが響く。
 平日のせいか、午後の病院は静かだ。

 304病室の前で彼は歩みを止めた。
 真紅の花束を持つ手を下ろしたのは、意外にも高校生らしき少年だ。
 琥珀の双眸が寡黙に見つめた。外界から「隔離」された、この部屋・・・

 この中で、いくら時間を止めようとも―
      いくら季節(とき)の巡(なが)れを止めようとも―

 時にあらがおうと・・・

 運命は皮肉だ。
 巡り会いを感じた瞬間、せき止めていた衝動(きもち)が動き出す。

 あふれんばかりの紅い花を少年はそっと、誰もいない廊下に横たえた。

 ドアの前にひざまずき、祈るような眼差しに今、緋い火が灯る。

 ノックを二回。
 「隔離(カクリ)」を破る。
 ・・・「だれ?」

 白いベッドがきしんで声がしただろう。
 いぶかしげな面持ちで病室の「彼」は開かないドアを見つめるだろう。きっと・・・
 ―「隔離(カクリ)」に代わる無言のカラクリを捧げよう。

 ベッドを下りた「彼」がドアを開けた時、
(お前は再び怪訝な表情(かお)を浮かべるだろう)
 きびすを返し、独り少年は歩を踏み出した。
(ドアの向こうに俺はいない)

 そこには花束が取り残されているだけ。

 ―憎悪告白の花束だけが・・・

 何も言わずにここから立ち去る。言葉はいらない。
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