ガラスの靴はきみのもの
 






「かっこいいですよね」


背後からそんなふうに声をかけられて、ふと顔を上げると。
私の後ろ髪にハサミを入れている最中の美容師さんと鏡越しに目が合って、にこり、爽やかに微笑みかけられた。

「岸本一瑠、今すっごく人気じゃないですか。私も最近ファンになりました」
「へえー……」

彼女の言葉に相槌を打ちながら、手元の雑誌にもう一度視線を落とす。


きしもといちる。

私がたった今開いているページの中で、壁にもたれかかるようにポーズをとり、薄茶色の瞳でこちらを見つめている彼。

岸本一瑠は、最近よくテレビで見るようになった、主に10代20代女子から注目を集めている若手俳優だ。

この雑誌には、今晩から放送が始まる新ドラマの特集が組まれていた。


彼、初主演の。



「そのドラマ、私絶対見ます。あと伊達啓介のやつも」
「それ、刑事ものでしたっけ」
「そうですそうです!今期は見たいドラマが多くてたいへんですよー。録画忘れないようにしないと」


美容師さんのミーハーな声と軽快なハサミの音を背に、岸本一瑠の特集ページをめくっていくと、今度は伊達啓介の特集を見つけた。
彼もまた、女の子に大人気のイケメン若手俳優。

このふたりは私生活ではとても仲がいいらしい。


……だけど。


 
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