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2.先生が来た夏

(暑い…暑すぎる…)

夏だから当たり前だけれど。
汗が流れていく頬に風が当たると気持ちが良い。

7月が終わるという今日も、千代の家でお勉強に励んだアタシは、夕方だと言うのにいっこうに下がらない気温を恨みながら自転車をこいでいた。

家までたいした距離ではないけれど、自転車なら早いし便利だ。

(帰ったら先にシャワーを浴びよう)

そう思って家路を急ぐ。ベタつく汗を流したかった。


「ただいまぁ!って、あれ…?」

玄関に見慣れない靴を見つけ首を傾げる。お父さんの、直ちゃんの…弟の、と数えていくけれど、やはり、この有名ブランドのしかも綺麗な靴には全く見覚えがなかった。

「お帰りなさい、暑かっただろう」

リビングからお父さんが顔を出す。次いで直ちゃんが、お帰り、と言ってくれた。
ちなみに直ちゃんがアタシが居ない内に家に来ているのは日常茶飯事で、馴染んでしまってもう慣れた。
家の前に、彼の黒い愛車あったしね。

「ねぇ、お客さん来てる?」

リビングに入ってもお父さんと直ちゃんしか居なくて聞いてみる。

「ああ。千幸(ちゆき)に家庭教師雇ったんだ」

「カテキョ!?聞いてないわよっ」

弟の千幸も、アタシと同じで勉強は苦手で、受験生なのに大丈夫だろうかと心配はしていたけれど、家庭教師の話はこれっぽっちもなかった。

かなり、いや、凄く驚いたけれど家庭教師を雇うのに反対はない。ないけど。

「…家、月謝払うほどの余裕あるの?」

「あぁ、それなら心配ねぇよ。カテキョっつっても、俺の友達で個人的に教えるだけだからそう言うのいらねぇよ」

「そ…そぅ…」

とりあえず心配事が消えてホッとする。

父子家庭で、いくらアタシがバイトしているとはいえ、金銭的に余裕があるわけじゃない。だからといってお父さんもお仕事頑張ってるし不満があるわけない。

「聞きたい事はいっぱいあるけど、とりあえず荷物置いてくるわ」

「麦茶、用意しとくよ」

お父さんに、ありがとうと返しながらちょっと急な階段を上って行く。



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