いろんなお話たち
海色に塗り潰す
嘘みたいなほんとの話。
田園風景が広がる田舎道で、私は深手を負った天使に会った。
天使、とするのは背中に真白い翼を見たからだ。
人間なのに翼をもっているなんて、しかも白。
私が知ってる限りでは、本やテレビ(おもにアニメ)で得た知識ではそういう生物は天使と見る。
聖書を主にした絵画では、天使は裸の子供が主だけどその天使は成人女性で見たこともないような服を着てて。
自分のことを名前で呼ぶ、可愛いらしい人だった。
けが人の手当だなんて、中学生の私はそれなりにしかできなかったけど、傷口に消毒液を垂らして包帯を巻いた。
傷口がしみるだろうに彼女はなぜか笑顔で、目を輝かせて「ここではこういう風に治療するのね」と言った。
それでやはりこの人は天使なのだと思ったのだけど、不思議なことに傷は一晩ですっかり消えてしまった。
治ったなんてもんじゃない、始めから存在していないかのように肌なんか綺麗さっぱりだ。
驚いて、ああやっぱり人外なのだと思って。
傷が癒えたらすぐに帰るのかと思った天使は一週間ぐらい滞在した。
その間家にいたのだけど、不思議と私以外、家族の目に彼女は見えていないのだ。
独り言が増えた私は家族に幽霊と話しでもしているのかと白い目で見られたけど、それ以上に。
彼女とすごす時間は楽しかった。
彼女の話すことはとても面白くて、だって雲の上の王国とか、私が今立ってるこの地面の下にも国があるなんて。
しかもその人たちは白い翼じゃなくて黒い翼を持ってて!
それって悪魔? と訊いた私に彼女は声をあげて笑った。
そのうち逢わせてくれるとも(悪魔だったら本当にイヤなんだけど…)。
ひと夏の出会い。
ひと夏の奇跡。
名も知らぬ天使とすごしたあの夏から、漸く一年が経とうとしてます――。
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