いろんなお話たち

「どこ行ってたんですか、ヤルミル。もうみんな食べてますよ」
ぎしぎしと軋むドアを開けヤルミルが中に入るとそんな声がした。
後ろからひょっこりと顔を出すとみんな一つのテーブルに座っていて。
「カシイさん。おはようございます」
穏やかな声と共に微笑まれる。
「あ…おはようございます」
とりあえず微笑み返しておいて、一時停止。
えーと、誰だ……キーワードはメガネ、と魚の名前…ニボシ…じゃない。
そう、シラスさんだ! シラスさん!
「なーんだよヤルミル~。朝からカシイちゃんとデートかぁ?」
「デ?」と小首を傾げる目の前の少年に、
「違います。ヘンなこと言わないで下さい」
素早く否定。
それでも意味を考えてるヤルミルを通り過ぎ、
「あれ? カシイさんは食べないんですか」
「……そんな気分じゃないので」
朝から悲しい夢見るわ、歌声聞かれるわで激しくブルー。
そんな中食べれる訳ない。
しかも異世界の食べ物だからもしかしたら中るかもしれないし……。
心配そうにこちらを見るシラスさんの顔を見ることができない。
俯きながらテーブルの傍を通り過ぎようとしたら、腕を掴まれついでにカチャリと音がした。
「食え。途中で倒れられでもしたら困る」
有無を言わさぬ双眸で、朝からセクシー男が銃口を向けてた。
…え、なんですかこれ。
なんで銃が?
つーか普通女の子に向けるもの?
「…………、あ、あの、もしそうなったらその場で放置してかまわないので、」
「ンじゃ、そン時はオレが喰ってイイってコトだよな? お前細くて、まずそうだからあんま食指動かねえんだけどな」
「食べます。皆さんに迷惑かけない為に、今すぐ食べます。残さず食べさせて頂きます」
何やら狼男が物騒な口を挟んだので慌てて空いていた席についた。
皿やカップは既に置いてある。
けど、場所がまずかった。
「…………あ、あのシュシュさん」
向けられた銃口が下りることはない。
もしかして名前を間違えてしまったのか、私の発言の後、眉間に深く皺が刻まれた。
まさかこいつの隣に腰かけてしまったなんて朝から死亡フラグ、こんにちは!
「あっ、名前間違えてたらごめんなさい。あの、ご飯はちゃんと食べるので、その……」
銃、をおろしてくれませんか。
「ユリユシュ。カシイちゃんがビビってる」
吐息交じりの青髪兄さんの言葉にユシュ…、ユリウス…、ユリュさんは私を見たまま懐に銃をしまった。
……み、見つめられるなか食べる趣味は私にはないんだけどな……?
とりあえず食べよう。
早く食べて部屋に閉じこもろう。
射るような視線に逃れながらひたすら目の前にあるものを消化。
後でこの世界の食べ物については教えてもらうことにして。
途中つまりそうになった時はカップの中を飲みほして。
手の届く範囲にあるものは、どんな形をしていようと、どんな色をしていようと食べた。
食べた。
冷静に考えればものすごく命取りなことをしていたと思う。
だって普通、見ず知らずの土地の食べ物をいきなり、……ねぇ?
何杯目かの水を飲み、ガラスコップを叩きつけるようにテーブルに置いたところで。
「うんっ。味はよくわからないけどとりあえず、……?」
そこで漸く私は向けられていた幾つもの眼差しに気付いた。
「? ……あのー、なんですか?」
彼らの中で唯一、ヤルミルだけが歯をニッと出して笑い、
「カシイも俺と同じか! 仲間だな! でも、俺の分はやらねぇぞー」
???
同じ?
何が?
「…ごちそーさまでしたっ」
それにしてもずっと視線を感じているというのも気分が悪い。
さっさと部屋に行ってしまおうと、ぱちんっと顔の前で両手を合わし、席を立つ。
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