もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~

その放課後。

翔太が帰ろうとすると、慌てた様子でアヤが廊下を走ってやってきた。

「……どうしたの吉川さん?」

アヤはぜぇぜぇと肩で息を切らしている。

翔太は何も言わずにアヤが落ち着くのを待つ。

「はぁ、ゴメン。粕谷先生から伝言頼まれてたのすっかり忘れてて」


アヤは息を整え、ふぅっと胸を撫で下ろす。

「うちの学校ね、部活動が全員入部制なんだ。

だから今週中に部活見学して、来週には参加しなさいだって」

粕谷からの伝言をようやく届けてにっこりと笑うアヤ。

しかし翔太の笑顔は少し引きつっていた。

「……吉川さん。それいつ頼まれてたのかな?」

「うんとね。

…………火曜かな?」

にっこりと笑顔のまま話し続ける2人。

何だか不気味である。

「……今日が何曜日だか知ってる?」

「あー、うん金曜日だね。

…………ごめんね」

翔太はがくっと肩を落とすのだった。

「本当ゴメン。私も見学付き合うから……」


「はは。そうだね、お願いするよ。」

そして2人は校舎内で活動する部活から見学していくことにした。






その時点で吉川はあることに気が付いていた。


翔太がテニスコートを見ないように、無理をしていることに。






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