たったひとりの君にだけ

例えば、少し距離を置いて、私のオフィス前ではなく、また、あのキオナで待ち伏せしていたとしても。
片道3斜線を跨いだ先、私がエントランスから出て来るのを樹は確認出来るはずはない。

彼はマサイ族じゃない。
不可能である。

こちらだって、苦手だけどマスクで顔を隠してコートの帽子でも被ってしまえば絶対に気付かれない。

電話は出ない。
メールも無視。

そして、住んでいる場所がわからない以上、樹は私に何も出来ない。


けれど、心配無用の理由をハッキリと伝えても、簡単に納得してくれなくて。
新発売のカップラーメンの写メを添付しながら、5分後には返信が来る。



【俺でよければ力になります!(^^)困ったときはお互い様です!】



だけど、そのメールに私は何も返さなかった。


だって、彼はただ、同じマンションの住人かつラーメン友達かつ時々メールをする相手だってだけなのに。

どうして頼れるっていうの。

彼女でもないのに。


困ったときはお互い様だなんて、私は君に何もしてないのに。



そんなの、無理でしょ。



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