たったひとりの君にだけ

そして、重い腰を上げて、トレーに二人分の食器を重ねようとした私を、彼の手が制した。


「後片付けは、俺がやります」


意外な申し出に思わず顔を上げると、彼は優しく笑っていた。


「……洗い物出来るの?」

「失礼なっ!俺、実家にいた頃、洗い物担当でしたから!」


相変わらずの悪態をつく私。
一方で、彼はムキになっている。


「洗い物担当?」

「はい。食事はばあちゃんと姉ちゃんが交代で作って、洗い物は俺でした」


話しながら、彼は手際よく食器を片付けていく。
そして、足早にキッチンへと向かう。


「……ご両親は?」


その後ろを追いながら、私は静かに問い掛ける。

1ヶ月前に看病してくれながら聞いた話だと、ご両親は大晦日に大喧嘩したって言ってたからご健在だと思うのだけれど。

すると、彼はシンクの中に食器を置いて話し出す。


「俺んち、両親共働きで忙しかったんですよ」

「そうなの?」

「はい。父ちゃんはトラックの運転手、母ちゃんはナースです。だから、ばあちゃんが面倒看てくれて、料理好きの姉ちゃんも出来る限り作ってくれて、勿論、母ちゃんも家にいるときは作ってくれたけど」


だからこそ、高階君はおばあさんを大切にしているのだろうか。

一緒に浅草や巣鴨に行ったり、逆に言えば、おばあさんもわざわざ遠方から孫の顔を見に来たり。


離れていても。

大切な家族だから。


「あ、ちなみに父ちゃんは俺と同じで料理は全然ダメですが」


『スポンジ、こっちでいいですか?』と尋ねた後で、彼は自虐的に漏らす。

血なんだろう。
そう思っておこうと思った。
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