たったひとりの君にだけ

結局、話し相手になってなんて口先だけで、9割近くは彼が喋っていた気がする。


忘年会で同期が羽目を外して、隣に座る女性社員にいきなり抱き付いて本気で殴られた話。

姉夫婦と共に帰省した甥っ子が、あまりにも雪が少なくて『雪だるま作れない~!』と大泣きした話。

紅白歌合戦で、有名演歌歌手の最後の勇姿を見届けようと頑張っていたお父さんが、結局酔い潰れて寝てしまい、起こしても起きなかったくせにお母さんを責めて2013年最後の大喧嘩をした話。
その様子を親族一同、『仲良しだなぁ~』と微笑ましく思いながら誰も止めなかったらしい。



あれこれ色々話されて、決して話術が巧みとは言えないながら所々クスッと笑いながらも。

徐々に睡魔が威力を増して来た私は、勝てないと思い、目を閉じて素直に意識を手放すことにした。


だけど、夢うつつに聞こえた一言。




『好きだよ』




私は気付かない振りをした。




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