たったひとりの君にだけ

タイムカードを切ってデスクへと向かう。

オフィス内はしっかりと暖房が効いていて、ほっと安堵しつつも外気との差にやられそうになる。
眼鏡愛用者ならば一瞬で曇って、視界不良となっただろう、危ない危ない。


「あっ!あけましておめでとうございます、メグ先輩!」


見慣れた背中。
PCを前に両手を動かしていた後輩が、振り向きざまに手を止めた。


「あれ、実加ちゃん?」


律儀に立ち上がろうとした彼女を制す。

まだ就業時間前だ。
そこまでする必要はない。

そもそも、ある程度上下関係をわきまえるのは社会人として常識でも、そこまで堅苦しいのは好きじゃない。
それに、このオフィスは常時アットホームな空気に包まれているだけに、実際には軍隊のような動作は何ひとつ相応しくないのだ。


「あけましておめでとう。どうしたの、早いね」

「はい!新年一発目なので、気合い入れようと思って」

「やる気満々だね、偉い偉い」


私が笑顔でそう口にすると、直後にわかりやすく笑みを浮かべる。


「今年度もあと少しですもん。少しでもメグ先輩に迷惑掛けないように頑張ろうと思いまして!」


この一生懸命さは、入社当時、こんな私にもあった気がする。
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