たったひとりの君にだけ
一人虚しく突っ込んで、渋々コートを羽織る。
残念ながら、あいじま食堂はおあずけだ。
(本日のお魚定食食べたかったのに!)
「……実加ちゃん、ごめん。ランチはまた今度」
「えっ、どうしたんですか?」
「急用出来ちゃって。ごめん、埋め合わせはするから。倍返しするね!」
出口へ向かう途中、失礼を承知で早口かつ簡潔に理由を述べて、最後は去年の流行語大賞で締め括る。
後方から大声で名前を呼ばれつつも、振り返ることなくフロアを後にした。
言い訳なんて出来ない。
心の中で激しく謝るしかない私を。
見事に思惑通りだと、直線距離僅か100mの場所でアイツはほくそ笑んでいるのだろうか。