クローバー 家族
和ダンス一杯に仕舞われた着物。


母は着物が好きだった。

まだ子供たちが小さく専業主婦だったころはよく着物を着ていた。
今から思うと、私の小さい頃は着物は特別なものではなく、日常着だった。

「着物は暖かいのよ」

そう言いながら煮物の鍋蓋を開けて鼻歌まじりだ。


幸せな時間だったな。

それほど、豊かとは言えない家庭の事情だったのに、三姉妹にそれぞれ、着物を作ってくれていた。
着る機会もないのに、要らないよって言ったのに。


結婚式が終わって紺家に挨拶をするときには拵えてもらった訪問着であいさつに回った。
薄い桃色を基調にした大柄な花をモチーフにした美しい着物だ。

「みさこは大柄の模様がいいねぇ、顔がよく映える」

自分では着付けが出来ないのでいつもの美容院で着付けてもらうと決まって美容室の人から着物がとても似合うと言われる。



着物は不思議な衣装だ。


髪の毛を整えてもらい、化粧を施すとわくわくと楽しい気持ちになる。
私の中にも母の血が流れているのかな。

そんなことを考えてしまうが、私の顔立ちは父親譲り。
色黒で、肩も張っていて和服を着るのには、不恰好なのに、似合うね~と言い放つ。


歳を重ねていくうちに、父親そっくりだった私の顔が母親の顔に似てきたと言われるようになった。


不思議なもので、あれほど似ていないと思っていたはずの顔の輪郭や雰囲気が似てきた。
目や鼻、パーツを一つ一つ見ると、やはり似ていないのに。


「着物の着付けも習っておきたかった」
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