少女達は夢に見た。
「あ。メール来てる。」

夕食を済まし、自室に戻った私は自分のケータイが光っているのに気が付いた。


差出人は…柚奈だ。


18時45分受信。


絵文字つきの柚奈らしい明るいメール。


特に用があったわけではなさそうで、


〈はろ~。何してる?〉

と送られていた。


「なにもしてないんだけど。」


とりあえず顔文字も交えて返信する。


すぐに返っては…こない。


それもそのはず。


柚奈は火曜日、木曜日は、20時から22時まで塾に行っているのだ。


私も今のうちにお風呂に入って、宿題も終わらせてしまおう。




お風呂から上がり、宿題もすませた頃、


柚奈から返信が来た。


〈塾終わったなり~!〉

がははは…と笑う絵文字付き。


思わず微笑む。


「お疲れさま。」


柚奈の笑顔が頭に浮かんで、労いの言葉を呟いた。


メールはまだ続いていた。


スクロールすると…


〈そういえば〉


さらにスクロール


〈一瑠って〉


なにをそんなに、ためているんだ。


少々イラつきながらも、気になって、スクロールを続ける。


そこに書かれていた内容は、


〈あたしの好きな人、まだ知らないよね?〉


「……。」


私の思考が一瞬止まる。

確かに私は柚奈に好きな人がいると知ってしまってから結構経つけど、誰かは知らない。


しかし、なぜ今、こんなことを言うんだろう。


つい先程の事をちらりと思い出す。


小さく溜め息が漏れた。

柚奈にこんなにも好かれている"彼"が一体誰なのか、知らないのが現実。

そこまで気にしていなかった…という訳とはちょっと違う。


柚奈からも特に誰とは教えられなかったし。


別に早く知りたいとも思わなかった。


そりゃあ、気にはなるけど。


それよりも、あんまりそういう事を耳にしたくないという想いの方が強かったのだ。


一様、応援はするけど。

…形だけね?


だから、なんて返信したらいいか、少し迷った。

迷った結果、


〈知らない。教えたいの?〉


と、ちょっと意地悪気味に返した。


こう言っとけば、名前を暴露してきてはこないだろう。


もし二人が付き合うことになれば、嫌でも誰かを知ってしまうだろうけど。


今はまだ、知らないままでいたかった。


1、2分後、返信が来た。

いつもよりうるさく感じる着信音に、すぐにケータイを開いたが…


少し、見るのをためらう。


でもここで見なくても、どうせ明日会うのだ。


なら、いま見といた方がいい。


受信箱を開いた。


「〈一瑠って、意外と鈍感?〉」


鈍感?


どういうこと?


柚奈の好きな人って、もしかして、同じクラスの人?


私はそれ以上聞きたくなくて、話題を変えた。


だって…ホントにそうだったら、私はこれからどうしろっていうんだよ。

間近で柚奈とイチャつく姿を見なきゃいけないのかよ!?


そんなの…最悪だ。


だったらもう、私の知らないところでやってくれ…。


私のいるところでは、柚奈でいてよ。


わがままなのは分かってる。


嫉妬しすぎなんだ。


分かってるよ。


だから、口には出さないでやってるじゃないか。

そうして深い溜め息をついた。


どうしてこんなに気にしてるんだ。


自問しても、答えはでない。
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