少女達は夢に見た。
「え。あ、溝口ちゃん。」
「どうしたの、それ。」
愛ちゃんは手に持っている教科書を裏返し、そこに書いてある名前を見せた。
「ゆずのなんだけどね。」
「柚奈のでしょ。」
確かに柚奈の名前の漢字“柚(ゆ)”は、ゆずと読むけど。
柚奈のもうひとつのあだ名。
ゆずな。
いや、ただ単に間違えられることが多いだけだけど。
「だってこれは柚(ゆず)って字だよ。」
ほら、と言ってその名前の所を指さす。
「そうだけど、それは“ゆ”って読むの。知ってるくせに。」
何年同じ部活やってるんだ愛ちゃん。
「知ってるよ。当たり前じゃん。でも変わってるよねー。」
じゃあなんで間違えたんだ。
声には出さない。
皆柚奈の読み方が珍しいとか、変わってると言うけど、私は一度もそう感じたことはない。
だって幼馴染みだから。
柚奈は柚奈という認識しか持っていなかった。
当たり前のように柚奈の読み方を知っていたから。
だから愛ちゃんに共感したりはしない。
「柚奈は今いないけど。」
斉藤組は昼休み校内かくれんぼや、外でバレーをする。
だから教室にはいないし、昼休みが終わるまで戻っては来ない。
「私が渡しておこうか?」
「え、いいの?ありがとね。」
にっこり笑って応える。
「じゃあお願い。」
愛ちゃんはすぐに去った。
昼休みを無駄にするのがそんなに惜しいのか。
受け取った教科書に書かれている名前を見つめた。
私が渡しておこうか、なんて言ったのは純粋な親切心からではない。
もう一度来させるのも気の毒だと思ったのもあるけど。
これで柚奈に話しかけるネタができる。
そう思ったからだ。
前回話しかけたときは、私が強引すぎてあんな会話になっちゃったけど。
普通に話しかければ、柚奈も普通に対応してくれるだろう。
そこで柚奈に怒らせるようなことをしてしまったのか聞けばいい。
「してない。」って言えば、「じゃあなんで避けてるの?」って聞ける!
よし。
完璧だよ。
うん。
これはナイスなアイデアだ。
とりあえず教科書は私の机に入れておこう。
「いっちー、ただいまー。」
そこに陽気な挨拶をして、アキと歩乃香が給食当番から帰ってきた。
「お帰り、アキ、歩乃香。」
「あれ?なにか良いことあったの?機嫌良いね。」
さっきのままのテンションだったから歩乃香に不信がられてしまった。
「ううん。なんでもないよ。」
その返事すらも、いつもより明るいと、自分でも分かった。
「機嫌が良いに越したことはないよ。さあ、図書室行こう。」
楽観的なアキの言葉で、歩乃香は詮索するのを諦めた。
「あとで教えてね。」
と、思ったのにな。
ふわりと私に笑って。
それからアキに着いていく。
なんで歩乃香はそんなに聞き出したがるんだ。
実は腹黒いのかな。
こんなに穏やかな顔しておいて。
「さーて、今日は何読もうかなー。」
どこまでも陽気なアキに、それ以上考えるのを止めた。
「どうしたの、それ。」
愛ちゃんは手に持っている教科書を裏返し、そこに書いてある名前を見せた。
「ゆずのなんだけどね。」
「柚奈のでしょ。」
確かに柚奈の名前の漢字“柚(ゆ)”は、ゆずと読むけど。
柚奈のもうひとつのあだ名。
ゆずな。
いや、ただ単に間違えられることが多いだけだけど。
「だってこれは柚(ゆず)って字だよ。」
ほら、と言ってその名前の所を指さす。
「そうだけど、それは“ゆ”って読むの。知ってるくせに。」
何年同じ部活やってるんだ愛ちゃん。
「知ってるよ。当たり前じゃん。でも変わってるよねー。」
じゃあなんで間違えたんだ。
声には出さない。
皆柚奈の読み方が珍しいとか、変わってると言うけど、私は一度もそう感じたことはない。
だって幼馴染みだから。
柚奈は柚奈という認識しか持っていなかった。
当たり前のように柚奈の読み方を知っていたから。
だから愛ちゃんに共感したりはしない。
「柚奈は今いないけど。」
斉藤組は昼休み校内かくれんぼや、外でバレーをする。
だから教室にはいないし、昼休みが終わるまで戻っては来ない。
「私が渡しておこうか?」
「え、いいの?ありがとね。」
にっこり笑って応える。
「じゃあお願い。」
愛ちゃんはすぐに去った。
昼休みを無駄にするのがそんなに惜しいのか。
受け取った教科書に書かれている名前を見つめた。
私が渡しておこうか、なんて言ったのは純粋な親切心からではない。
もう一度来させるのも気の毒だと思ったのもあるけど。
これで柚奈に話しかけるネタができる。
そう思ったからだ。
前回話しかけたときは、私が強引すぎてあんな会話になっちゃったけど。
普通に話しかければ、柚奈も普通に対応してくれるだろう。
そこで柚奈に怒らせるようなことをしてしまったのか聞けばいい。
「してない。」って言えば、「じゃあなんで避けてるの?」って聞ける!
よし。
完璧だよ。
うん。
これはナイスなアイデアだ。
とりあえず教科書は私の机に入れておこう。
「いっちー、ただいまー。」
そこに陽気な挨拶をして、アキと歩乃香が給食当番から帰ってきた。
「お帰り、アキ、歩乃香。」
「あれ?なにか良いことあったの?機嫌良いね。」
さっきのままのテンションだったから歩乃香に不信がられてしまった。
「ううん。なんでもないよ。」
その返事すらも、いつもより明るいと、自分でも分かった。
「機嫌が良いに越したことはないよ。さあ、図書室行こう。」
楽観的なアキの言葉で、歩乃香は詮索するのを諦めた。
「あとで教えてね。」
と、思ったのにな。
ふわりと私に笑って。
それからアキに着いていく。
なんで歩乃香はそんなに聞き出したがるんだ。
実は腹黒いのかな。
こんなに穏やかな顔しておいて。
「さーて、今日は何読もうかなー。」
どこまでも陽気なアキに、それ以上考えるのを止めた。