少女達は夢に見た。
そのまま帰ってしまえばスマートなんだけど。


荷物を置きっぱなしにしているため、一度美術室に戻らなくてはならない。


「面倒くさ。」


先程の出来事を自分で責めたくない気持ちからの独り言。


「いち!おかえりどうだった!?」


ドアをくぐるまえにカナンが駆け寄ってきて声をかけてきた。


期待にあふれた眼差し。

口角もあがってる。


「ご期待に応えられなくてすみませんね。なにも面白いことなんてないよ。」


「告白とかじゃなかったの?」


「全然。」


違う意味での告白はしたかもしれないけど。


美術室に入ると、なぜか好奇の視線が向けられた。


しかもほとんどの人が残ってる。


「おかえり。」


部長がにんまりと目を細めてのお出迎え。


「え、あ…ただいま、です。」


なんて答えればいいか分からない。


変な敬語になってしまったことについて、全く咎める様子も見せない。


他の部員の視線も痛い。

荷物を手に取り、


「期待するようなことは何もないです!」


周りの部員にも聞こえるくらいの声の大きさで、部長に向かって言い放った。


「お疲れ様でした!」


そして逃げる。


あの場に居たんじゃ私には対応しきれない。


重い荷物がパンパンに入ったリュックを肩にかけたまま急ぐ。


中の教科書が揺れ、思うように走れない。


それでも私はそのまま靴箱まで走った。


体育館ではまだバスケ部とバレー部が練習中。


ダムダム、と跳ねるゴムボールの音と、


それよりも軽いボールのインパクト音…。


体育館のガラス窓ごし、柚奈の姿を探した。





家に帰ると、見慣れない可愛らしいサンダルが目についた。


デザインはおしゃれで、20歳位の女性でも履けそうな、


ちょっとその小さなサイズには似合わないくらいに、背伸びしたサンダル。


「ヒールたか。」


恵瑠のガールフレンドでも来てるのかな。


「ただいまー。」


トタトタと、恵瑠の足音。


タッタッタ。


それを追いかけるような足音。


やっぱりガールフレンドが来てるのかな。


あれでもこの間、好きな人は居ないって言ってたくせに。


「お帰りなさい。」


「ただいま。誰か来てるの?」


「あ、うん…まあ、ね。」


妙に歯切れが悪い。


苦手なのかな。


その子のこと。


「めぐちゃん、待ってよ!」


女の子が小走りでやって来た。


恵瑠があからさまに嫌そ~な顔する。


こらこら。


「あれ?真琴ちゃん?」

ふんわりとしたボブスタイルと独特の高い声に覚えがあった。


「いっちゃん!久し振り!」


パアッと顔が晴れ、元気よく答える。


「やっぱり真琴ちゃんかー。久し振りだね。2年振りくらい?」


「そう!だっていっちゃん中学生になってから通学路違うし、地区のお祭りにも顔出さない。」


「ごめんごめん。」


低学年の頃は恵瑠の同級生として、何度も遊びに来たり、


恵瑠も真琴ちゃんの家に遊びに行ってたなー。


つい懐かしくなる。


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