少女達は夢に見た。
「な、なにその目!!人がせっかく恥をしのんで…。」


「いや?別に何も思ってないから心配しないでねー。」


私の視線に気づき、柚奈はそれに全力で抗議する。


まるで警戒心丸出しの小動物。


可笑しくて、吹き出しそうになる。


「い~ち~る~?」


軽くあしらうつもりだったが、どうやら相当恥ずかしかったらしい。


うめき声のようなものをあげながら、肩をしっかりと捕まれ大きく揺さぶられる。


「ちょっ!やめて!」


肩と一緒に、頭がぐらぐらゆれて、酔いそうだ。

「どうだ!参ったか!」

手を離されてもまだ頭が……
ああ、気持ち悪い。


柚奈は心配する素振りもみせずに、ドヤ顔をかましている。


「暴力反対!」


ふざけて叫ぶと、柚奈は楽しそうな笑い声をあげた。


私もそんな柚奈を見て、なぜか可笑しくもないのに笑えてきて。


誰もいない教室で、2人の楽しげな笑い声だけが響きわたった。





柚奈は私の幼馴染みであり、親友だった。


そう、親友だった、のだ。


過去形なのは、けして嫌いになったからじゃない。


ましてや絶交した訳でもない。


先週だって、柚奈とカラオケに行ったし、来週は一緒に勉強会をしようと約束している。


彼女の歌声はとても可愛い。


正直言うとあまり上手いわけではない。


ちょっとばかし音痴だ。

だけど、聞いているこっちも楽しくなるような、そんな歌を歌う。


勉強もあまり得意というわけではなさそうだ。


失礼だけど。


この間順位を聞いたら84位だといっていた。


ちなみに122人中。


うちの学校は一クラス30人、もしくは31人で4クラスだ。


つまり中の下・・・もしくは下の上か。


別にだからといって彼女を馬鹿になどしていない。


いや、口ではしてるけど。


別に私だってそんなに頭がいいわけじゃないし。

・・・柚奈よりはいいけど。

だから柚奈に、数学教えてくれとせがまれ、勉強会をすることになったのだ。


まあ、確かに2年の数学は他のテストと比べてやけに難しい…気がする。

授業の後も解らなかった問題を柚奈と聞きにいったり。


じゃなきゃ、あっという間に置いていかれる。


せめて内申が上がるように意欲を見せておこう。


それに、メールのやりとりだって、ほぼ毎日。

たわいもない内容で、ー度やるとなかなかきれない。


夕方頃に送ると、1分くらいで返事が来て、大抵最後に送るメールは「おやすみ」だ。


たまにだけど、柚奈から電話が掛かってくることもある。


自分で言うのも何だが、仲はいいと思う。


変わったのは、私の気持ちだけだ。


柚奈は私の気持ちの変化には全く気がついていない。


きっと本人は相思相愛だと思っているはずだ。


いや、別に柚奈のことを嫌いになったとか、そういうことでは、けして、けしてない。


柚奈のことは好きだ。


好きなんだけど、前みたいに思えない……というか。


だからなんとなく、自分で「親友」なんて、はっきりいってしまうことに罪悪感を覚えるようになってしまって。


かといって友達じゃなくなってしまったわけではないと思うけど。


しかし、やっぱりそんなふうに形容する訳にはいかないだろう。


自分の中で、もやもやとした気持ちがあるままで、柚奈のことを親友にしておくのは今は止めておこう、と、そう思っているだけなんだ。



そのきっかけとなったのは、今から約1ヶ月前のことである。


5月11日。


それはもう、臼黒く塗りたくってしまいたいほどの出来事があった。


なぜ、正確に日付を覚えているかというと、日記をつけているからだ。


その日から始まった、私の日記。
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