少女達は夢に見た。
――タタンタタン


窓辺に顔を近づける柚奈はすごく子供っぽい。


時折する電車独特の“タタン”という音が、やっぱりこの町が田舎なんだということを実感させる。


人はまだ空席がちらほらあるくらいに空いている。


まだ8時代。


おそらく夏休み中の部活に行く学生がいるけどそこまでラッシュになることはない。


タイミング良かったかな。


「ねぇ一瑠!!どこいくの?」


「まだ秘密」


目をキラキラさせて言うけど、まだ教えてあげない。


柚奈らしいデニムのショートパンツに、よく似合うオレンジのTシャツ。


カジュアルだけど、おしゃれな服装がすごく似合ってる。


黙っていれば、もうちょっと大人に見えるのに…。


ヒールのあるサンダルで身長もかさ増しされてることだし。


でもやっぱり。


おしゃれしても心まで着飾らないとこが、らしくって、好きだなって思う。


…って!


私は一人でなに考えてるの!?


私は柚奈の親か!


カアッと顔の体温が上昇する。


両手で顔を隠すようにして熱さを確かめる。


手でひんやり出来るくらいには私の頬は熱を持ってた。


「一瑠?」


「なんでもない」


にへら。


文字にしたらそんな感じで、柚奈が笑う。


「な、なに?」


「楽しいなーって」


鼻唄まじりに答える。


「それは良かった」


嬉しいのが恥ずかしくって、簡単に返した。


「一瑠は?」


「え?」


「一瑠は…楽しくない?」


寂しげに、眉を下げて。

いきなりそんな顔しないでよ。


「柚奈といて、楽しくないわけないでしょ」


笑顔で答えたつもりだったけど、なぜか言葉を失って、一瞬動作が停止。

「一瑠って……たまにイケメンだよね」


「え?なにが?」


“イケメン”?


私が?


「イケメンなのはアキだよ」


たたずまいからしてカッコイイし、しぐさひとつもなんかイイ。


「いや、そうじゃなくて」


「なにがそうじゃなくて?」


「うん。もういいです」


なんでそこで引き下がるのかな。


しかも敬語だし。


気になるな…。


「ねえ、なにがー?」


座席に座ったまま体をねじって柚奈の顔を下から覗きこむ。


「やだー」


だけどちょっと避けられた。


「ケチ」


吐き捨てるみたいに言ってやった。


「じゃあどこ行くか教えて?」


う…。


それはずるいぞ柚奈。


そんな優しく言われたって、言わないからな。


どうしても驚かせたいし。


驚いてくれなくてもいいから、楽しみにしていてほしい。


だから、言ってしまいたくなるけど、教えてあげない。


「それはお楽しみだからだーめ」


「じゃあ、あたしもお楽しみだからやだー」


「え?じゃあ、いつか教えてくれるの?」


私が問うと、少し考える素振りを見せてから、


「いつか、ね」


そう言って歯を見せて笑った。


「いつかっていつ?」


「うーん…5日?」


「言うと思ったそれじゃだめ!!」


生きてるうちに何回5日がくると思ってるんだ。


1年に12回だから、あと70年生きると仮定して…


「840回もあるうちのいつかなんて、あてにならないよ」


「一瑠って…頭良いくせにちょっと抜けてるよね」

「え?どこが?」


「なんでもない」


移動中は、ずっとそんな調子だった。
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