あたしの心、人混みに塗れて
蒼ちゃんの唇が首筋を強く吸った。


「…………っ」


ちくりとわずかな痛みが走る。


「蒼ちゃん…………」


蒼ちゃんは何も答えなかった。


首筋に蒼ちゃんの熱い息がかかって身動きができない。


それから、蒼ちゃんの唇が移動してあたしの唇を塞いだ。


思わず蒼ちゃんの服を掴んで、絡む指に力が入る。


蒼ちゃんが好きだ。


おかしいな、あたし達、ただの幼なじみなのに。


あたしはいつまでその枠に縛られているのだろう。


こんなに優しいキスをされて、何もないなんて、有り得るのかな。


蒼ちゃんならあるのかな。


ねえ、蒼ちゃん。あたしのことを何も思ってないなら、こんなキスしないでよ。こんな自惚れてしまいそうなキスを、他の女にもしているならあたしにはしないで。


裏切られた、なんて思いたくない。


あたしはわがままだ。


何も思っていなくても、ずっとこうされていたいと思ってしまう。でもこの体を振り払ってしまいたくもなる。どっちつかずの自分に泣きたくなった。


ねえ、蒼ちゃん、あたし達が幼なじみをやめるときはどんなときなのかな。その時はお互いが違う恋人を作って、別々の人生を送るのかな。いつかはお互いに背を向けて他人になってしまうのかな。


今までずっと一緒にいた蒼ちゃんとこれからもずっと一緒にいたいと思うことはいけないことなのかな。


自分が嫌になる。変わらないことなんてないのに。それは自分が一番よくわかっているのに。


蒼ちゃんがあたしに背を向けて遠くへ行ってしまう光景が脳裏を過ぎった。涙が一筋頬を滑った。


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