あたしの心、人混みに塗れて
「蒼ちゃん、今日から一週間あたしに触らないで」

「へ?」


テーブルの反対側で鍋をつついていた蒼ちゃんが驚いたように目を丸くさせた。


「なんで?」

「来たから」

「何が?」


あたしは豆腐を口に入れながら言うべきかどうか迷った。


今な鍋を食べてるし、生々しい話をするのはちょっと阻まれる。こんな話を食事中にするのもどうかと思うけど、油断していても一番触って来ないのがこの場だから仕方ないのだ。


やっぱり男の蒼ちゃんには単語を言わなければわからないか。


「……生理」


反対側に聞こえるか聞こえないかの声量でぼそりと呟くと、「あー、なるほどね」と蒼ちゃんは頷いた。


「ごめん、食事中に」

「いいよ、俺そういうの気にしないから。でもともがなったところで余計なとこには触らないよ。変態じゃあるまいし」

「でも、嫌なの。今回ちょっとひどくて。なんかわかんないけど、帰ってきてからすごいだるくて自分以外に触られるのが嫌になっちゃって」

「あ、そうなの? だったらごめんね、さっき無理やり手繋いじゃって」

「蒼ちゃんは悪くないから。だから、一週間はあたしに触らないでくれる? 手繋ぐのも、一緒に寝るのもやめてほしいの」

「うん、わかった」


蒼ちゃんはあっさり頷いてくれた。


「女の子は大変だもんね。俺は一週間くらい大丈夫だから」

「……あ。あの、蒼ちゃん」

「ん?」

「普段は触られて嫌とか思ってないから……」


うう、恥ずかしい。自分の気持ちを伝えることってすごく恥ずかしい。


顔を真っ赤にして俯いて豆腐に逃げたら、蒼ちゃんがふはっと笑った。


「うん、わかってる」


ニコニコ笑う蒼ちゃんを見て、ごめんねと心の中で謝った。


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