Under The Darkness
 ひやりとした掌が私の素肌に直接触れる。瞬間、ざわりと肌が粟立った。

 私の服はいつの間にか寛げられていて、露わになった肌の上に引っかかるのみになっていた。

 スウェット地のパンツごと下着を奪われ、息つく間もなく京介君に腰を持ち上げられ、非難の声を上げることすら適わず、性急に貫かれる。

 余裕を無くした京介君の顔。

 怒りをぶつける激しさで、容赦なく私の身体が揺さぶられる。突き抜けるような鋭い痛みが訪れた後、大きく波打つ肢体にじわりとした鈍い痛みが広がってゆく。

 助けを求めるように伸ばした腕が、京介君の首に絡みつく。

 京介君が、吐息のような淡い笑みを浮かべたのが分かった。

 それは、冷笑でも嘲笑でもない、安堵するような静かな笑み。



 首に回った私の腕を解くことなく、京介君は再び獣性を現した。

 繰り返される激しい律動に、意味を成さない言葉の羅刹が京介君の唇に吸い込まれてしまう。


「――んんっ、……ぅんっ」


 雫ほどの愉悦の波が、次第に大きなものへと姿を変えて、内側から津波のように迫り上がってくる。


「っ、きょ、京介く…っ…あぁっ、」



「……いしてる」



 ハッと目を開けた。

 首筋を這う京介君の唇から、吐息のような呟きが漏れ聞こえてきた。



 ――今、京介君は何を言った?


 首筋を震わせたその言葉が、私には聞き取れなくて。

 身体を焦がす灼熱の焔に喘ぐ私の眸に映り込んだのは、己の愚かさを自嘲するような、自責の念に駆られるような、憂いを帯びた京介君の姿だった。



 ―――――何故そんな哀しそうな顔をしてるんだろう。


 けれど、貪欲な獣に浮かんだ表情はすぐに掻き消されてしまう。

 京介君に浮かんだ偽りない『本当』の顔。

 そこに、彼が発した言葉の中に、矛盾の答えがあるような気がした。


 京介君の矛盾。

 私を憎むと言いながら、囁かれる言葉は誘惑するような甘さを孕み、私を抱く腕は壊れ物を扱うように優しかった。

 京介君は言った。

 自分だけしか見てはいけない。

 自分だけのオンナになれ。

 彼は本当にそれらを望んでいるんだろうか?

 この行為は、復讐のためだと、私が償うべき代償なのだと、京介君はそう言った。

 けれど、その言葉の裏にある感情は、『憎しみ』だけとは違うような気がした。


 それらの言葉は、まるで――――。


< 237 / 312 >

この作品をシェア

pagetop