Under The Darkness




「美里ちゃん!? 不審者だって!?」


 鈴木さん、廊下にあった箒《ほうき》を手に、スペアキーを使い部屋へと突入してきた。


 私は助かった! と、涙が溢れそうになる。

 けれど。


「え? まま、馬淵さんじゃないですかっ!」


「おや、鈴木さん。私の彼女、美里さんがいつもお世話になってます」


 ――え? 彼女? 誰が!? ってか、京介君、なんで鈴木さんと知り合い!?


 私は口を塞がれた首つり状態のまま、疑問符を散らしながらふたりを見比べた。


「ええ!? 美里ちゃんは馬淵さんの彼女さん!?」


「はい。美里さんは私の婚約者になります」


 ――――にっこり笑顔で何言うてんの、この男!!


 鈴木さんは冗談が通じない素直な人だから、信用してしまうではないか。


 鈴木さん、よく見て!

 私、口塞がれて首吊られてるんだよ!? 恋人とか婚約者とかにする仕打ちじゃないってわかってよ!


 私は私の口を覆う京介君から逃れようと必死で藻掻くんだけど、私の思いは鈴木さんには届かなくて。


 ――――煩い、黙れ。


 零れ落ちるほど目を見開いたまま、私の動きがピタリと止まる。

 京介君は視線だけで私を黙らせた。




「そうだったんですか! だから、美里ちゃんがお目見えしたと同時にうちの株を。そうですかそうですか。美里ちゃん、そんな大事なことちゃんと教えてよ~。彼は、馬渕家はウチの筆頭株主でもあるんだから~! それに今回のドラマの件、スポンサーにまでなって頂いて、しかも! うちの事務所から悠宇まで抜擢して下さったんだよ! 本当にありがとうございました!!」



 え、筆頭株主? 悠宇のドラマ、抜擢ってなに?

 私の頭は混乱を極めた。
  


「いえ。彼は役者志望で、尚且つとても有望株だと評判でしたので」


 この会話はなに。

 息を大きく吸い、私は頭を整理した。

 悠宇はドラマの出演が決まった。

 鈴木さんは、ドラマに抜擢したのは京介君のような口振りだった。

 しかも、事務所の筆頭株主が馬渕家、つまり、京介君とお父さん?

 ……京介君はうちの事務所の関係者だった!?

 筆頭株主ということは、経営陣は京介君の言葉には事実上逆らえない立場にあるってこと。

 それに、鈴木さんのセリフ。

 京介君は、悠宇が出演するドラマのスポンサーでもある?

 あの若さで!? しかもヤクザなのに!? あり得ない!


「美里さん? 私達はオモテの仕事もちゃんとしているんですよ? 誤解して貰っては困ります」


 私の顔を見て、何を言いたいのか分かったんだろう。

 私の疑問にコソリと耳打ちしてくる。



 ――――ちなみに、私は極道とは一切関係ないIT関連企業を数社任されています。


 そう言って、京介君は誰もが知っているソフト会社の名前を口にした。

 私は瞠目したまま息が止まる。


「私の機嫌を損ねたら。せっかく掴んだ悠宇の夢が潰《つい》えてしまうかも知れませんね?」


 その言葉に愕然とした。

 ふっと京介君の手が緩む。

 私が京介君に逆らえないと分かったんだろう。

 あまりの驚きに身体が痺れたように動かなくて。



 私は言葉なくその場に立ち尽くした。




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