Under The Darkness
「ええやん。お互いアホ同士で」
いつもの調子に戻そうと、悠宇は屈託のない笑顔を向けてくる。
私は涙の滲む目でそれに答えた。
「・・・・漫才出来そやな」
「なんやみぃちゃん、吉本か? 夫婦漫才的な?」
「ふふっ。悠宇はかっこええ役者になるんやから、漫才は出来んな」
「何をグダグダ話しているんですか」
突然割って入ってきた京介君の声に、私と悠宇、ハッと驚いた目を彼へと向けた。
「コラ、馬淵! 邪魔すんな!」
突然乱入してきた京介君に、金城さんは怒りの声を上げる。
京介君は金城さんの声を無視して、私達を烈しい妬心の混じる目で睥睨してきた。
「なんやねん。人に言うといて、お前こそが余裕ないんちゃうのん。なんやその嫉妬に歪んだ顔。なあ、京介君?」
ふっと嘲るように唇をつり上げた悠宇は、挑発するように京介君を一蹴する。
京介君の双眸が一気に狂暴な光を放つ。
私は、マズいと思って悠宇の身体を「やめて」と揺すった。
その手を京介君が掴んで引き寄せる。
体勢を崩した私は、京介君の胸に倒れ込んでしまう。
「身体だけ手に入れても、みぃちゃん自身は手に入らんてわかってんねんやろ? 抱けば抱くほどにみぃちゃんの心は離れていくんやで?」
「……貴様に何が分かる」
腹の底から溢れ出す憎悪が、苛立ちが、呪詛のような声色で京介君の口を吐く。
そんな京介君を、悠宇はハッと嘲笑う。
「わからんね。なーんもわからん。オレはな、みぃちゃん、美里を愛してる。オレの愛は、守る愛や。お前らみたいに壊す愛と違う。ボロボロになった美里はな、最後、必ずオレの所に戻ってくるんや。オレを頼ってくれんねん。オレだけが美里を苦しみから救ってやれる、たった一人の異性なんや。それが何を意味するか、お前にはわかるやろ。なんぼ足掻いたかて、お前じゃオレには敵わんのや」
ははっと笑う悠宇に、私は目を瞠った。
私を強く抱きしめる京介君の服を、知らず、私はぎゅっと握りしめた。
「美里がお前のことを選ぶんやったら、オレは身を引いたるわ。でもな、美里がお前を選ぶことはないんや。絶対」
京介君はただじっと、炯々と輝く双眸で悠宇を射貫きながら、嵐の前の静けさの如く不気味な沈黙を貫いている。
それが私には怖かった。
先ほど聞いた悠宇の本音には驚いたが、それでも、京介君の怒りが私ではなく悠宇にまで向いてしまうことが、私にとって身を切られるほどの恐怖だった。
「美里にとっては、お前と豪は同じ。なんら変わらへん。違うか?」
悠宇は淡々と続けた。
「……暴力で愛を得ようなんざ考えてる限り、美里の心は手には入らんねやで」
――――やり方間違ごうてもうたなあ。
悠宇の嘲笑に、京介君は静かに唇を歪ませた。