Under The Darkness




『僕以上にキミを愛する男は現れない! ははっ、これで、キミの心には深く僕が刻まれる。キミを愛するあまり僕は死んじゃうんだ! 僕の心に応えない、キミは人殺しなんだよ! 愛してるよ、僕だけのキミ! キミの中にある愛は僕が全部持っていく! キミは僕以外、誰も愛せなくなるんだ!』


 狂ったように嗤いながら、炎に包まれ、まるで激しく舞い踊るようにして私の傍まで近付いてきて。

 肉を焦がす生々しい匂いに、私はまたその場で嘔吐した。

 吐瀉物のすえた臭いと人間の肉が焦げるリアルな匂い。

 吐き気が止まらず、目からは生理的な涙が溢れ出す。


 あっという間に小屋が業火に包まれ、さらに枯れた竹林にまで火は引火して、その場は火の海になった。

 薄暗かった辺りの景色が一気に明るくなって私を包む。

 竜巻が起こったように熱風が吹き荒れ、私の肌を舐めるように焦がしてゆく。

 男は放心する私に手を伸ばした。

 近付く男に震え上がり、私は足だけで素早く後ろへと退いた。

 男の手が力を失いカクリと地面に落ちる。

 眼球が熔け落ち空洞になった男の眼窩《がんか》が、私をじっと見つめていた。



 炎に包まれた男が黒く焼け焦げるまで。

 近所の人が私を見つけ助けてくれるまで。


 私はじっと、空っぽになった男の眼窩を見つめ続けていた。



 男が燃え尽きたこの瞬間、私の中の『愛』が獄火《ごっか》に包まれ、目の前の男と共に、消し滓《かす》となり消えてしまった。




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