Under The Darkness
 それからの時間の流れはとても速かった。

 大阪に帰ろうとした私を、父さんと京介君はあの手この手で東京に来るよう説得した。

 結局、熱意? に根負けしてしまった私は、お父さんが用意してくれたマンション(億ション?)にしばらくの間住んだ。

 それに、大阪のアパートも引き払わずそのままにしてくれた。

 東京に引っ越した後、ほんのわずかな期間だったけれど新しい学校に通うことにもなって。

 でも、京介君はなんだかんだで2ヶ月半も入院していたものだから、一緒に学園生活ってのは全くの皆無だった。

 その上、京介君が退院した3日後には、予定より早く金城さんと共に中国へ旅立つことになっちゃって。

 卒業を前に、私、高校中退になってしまった。

 京介君、予定よりすこし早まった中国行き、めちゃくちゃ怒ってた。

 でも、最後は諦めて、京介君は待つって言ってくれた。


『待っとかんでもええ。適当にやってて?』


 そう言ったら、怒った京介君に抱き潰された。




 そして、中国行きの前日。

 京介君は部屋に鍵を掛け、思うさま私を貪った後、意識が朦朧としていた私の片耳に、いきなりピアスを開けた。

 片側だけのピアス。

 私は右耳に嵌まるそれを、指先で弄ってみる。

 いきなり何をするのだと、甘い余韻が一気に吹っ飛んだ。


 驚く私に、京介君は言った。


『これは婚約指輪の変わりです。血が繋がっていても、私達は戸籍上、赤の他人。法的に婚姻も可能なのです。貴女が日本に戻ったら。その時は、貴女を妻にするために、必ず迎えに行きます』


 私の答えを聞く前に、勝手に私の右耳へと、ピアッサーでこのピアスを填めたんだ。

 
 しょうがないなと溜め息を吐きながらも、私は京介君の左耳に穴を開けて、同じピアスを填め込んだ。

 京介君の耳朶で輝く、血のように昏く赤い、ピジョンブラッドのルビー。

 一対のピアスは、今、私と京介君の片耳づつを飾っている。

 それはまるで、結婚式で行われる指輪の交換みたいに思えて。

 全く違うんだけど、私にはそう感じた。

 きっとこれが最後になるだろう。

 でも、この一瞬は、忘れられない甘い夢を見ることが出来た。


 ――――京介君の所に、必ず戻るから。


 嘘でもない、本心でもない、そんな言葉を京介君に告げて、私は京介君の腕に縋った。



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