Under The Darkness





 丸い曲線を描く受話器を手に、私は立ち竦んでいた。

 アンティーク調のお洒落な電話機のプッシュボタンへと指先を添えたまま、記憶している番号の続きを押せなくて。緊張に動きを鈍らせてしまう。

 さっき京介君が言った非道なセリフに激怒した私は、彼に怒りをぶつけた。

 怒りを向けられた京介君は、観察するような目で私を見据え、うっすらと唇に笑みを刷き、静かな湖面に似た静逸さを纏いながら悠然と佇んでいて。

 私が言葉を発する度、彼の無言の威圧が強さを増し、次第に口が重たく鈍くなる。

 ひたひたと足元から忍び寄る恐怖を感じながらも、私は勇気を振り絞って自分の意見を口にした。

 感じる怯えを怒りで隠し、京介君の行いを非難した私は、一人で大阪へ帰ると、人の意見を聞かずに行動するアンタは信用出来ないと、強く主張した。

 悠宇が迎えに来てくれるから一人で大丈夫だと言い張った。

 けれど、京介君は頑としてそれは譲らなくて。

 私も怒りにまかせて声を荒げた。

 帰りたいのだと。無事であることだけでも悠宇に伝えたいと。

 そうしたら京介君、『では、今から大阪へ向かいましょう』そう言って、舎弟さんに指示を出した。

 私はびっくりした。

 そんなに急に帰れるとは思わなかったから。

 そして、さらに京介君は言った。



『それほどまでに気になるのなら、その男に連絡してもいいでしょう。――ただし、連絡して良いのは』


 ――後にも先にも、この一度だけ。


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