嘘と涙。
綺麗事
「和樹くーん!」

綺麗に澄み渡る日曜日の青空の下。
人混みの中、不意に彼の耳へ女の声が響き渡った 。

自分の耳にも響く。
これは聞き飽きた自分の声。
私に気がついた彼、岡本和樹は目尻を少し下げて小さく 手を振り返した。

───安心した。

動作、とか仕草ではない。

和樹が生きていたから。 生きていなかったら、殺しても価値がないから。

殺し屋集団に所属し、馴れ合っている内にいつの間にか 私は殺すのが趣味になっていた。

気味悪い、暗い、恐ろしい。 好きなだけ言えばいい。

「待たせてごめんね…」
「いや、俺も今来たところだから」

日常風景でよくある会話を交わす和樹と、私。

……いや、私ではない。
今ここにいる女は、単なる私の容姿に似せた偽物だから 。

真の私は、こんな笑顔なんて向けないはずだもの。

そんな偽物の私がいるとも知らず、 和樹は笑っていた。騙されていた。

偽物も、笑い返した。

「さてと、何処行こうか?」
「んー、和樹君が決めていいよ。」
「じゃ、カラオケは?」
「いいね!カラオケにしよ」

話して、笑って、手繋いで、歩いて。

………また、話して。

そんなのただの、綺麗事だった。
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