ラスト・ジョーカー

*第四章 きみが呼ぶ名前 7*



 通りすがりの花屋の店先で白い風鈴草を見つけて、カンパニュラは足を止めた。



 可憐に咲く純白の花に目を細めて、その花びらをそっと撫でる。


PKで自分の姿を透明化しているので、花を眺める白髪の少女の姿は道行く人には見えていない。



「カンパニュラ・コクレアリーフォリア」



 清流を思わせる涼しい声が、花の名を呟いた。



「わたしと同じ名前ね。苗字は違うけど」



 ふふ、と笑うと、少女は次にみずからの名を口にした。



「カンパニュラ・ローゼフィリア。……苗字も少しだけ似ているわね」



 再びふふ、と笑って、カンパニュラは歩き出した。



 かつては――〈裁きの十日間〉の前は、奈良と呼ばれたエリア〈シロガネ〉の街を、白髪の少女は歩む。


ひらりふわりとワンピースの裾を風に揺らして。



「もうこの辺りも、ずいぶんと変わってしまった」



 風に乗る小さな声ははかなくともたおやかだ。


もし風鈴草が本当の風鈴のように音を立てるなら、それはきっとこんな音だろう。



「寺社仏閣なんかはほとんど、百年前の〈裁きの十日間〉の日に破壊されてしまったものね。もうこの街に、あの人と過ごした日々の面影はどこにもないわ」



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