ラスト・ジョーカー

*第四章 きみが呼ぶ名前 8*



 鉄骨をつかんだ手が汗で滑って、支えを失った体が重力に従って落ちていく。



 幸い地面がもう近く、エルは尻をしたたか打っただけで怪我はしなかった。


空を見上げるともう太陽は真南に輝き、自分はいったい何時間かけて塔を降りてきたのだろうかと、思う。



 エレベーターを使えばもっと早くに地上へたどり着いただろう。


だが、ゼンを塔から突き落とした張本人である男の匂いが染み付いたエレベーターの中になど、ほんの数秒の間も留まりたくなかった。



 麻由良たちはもう男を〈トランプ〉に引き渡しただろうか。


きっと麻由良はゼンの捜索を〈トランプ〉に願い出ただろう。


ならば、局員がもうじきこの森の中へゼンを探しにやってくる。



 ゼンは〈トランプ〉への反逆罪で追われている。


局員より早くゼンを見つけないと、――そう思いかけて、だがエルは「違う」と呟いた。



 エルが先に見つけようが、〈トランプ〉が先だろうが、関係ない。


反逆の罰を受けるべき人は、――もう、死んでいるのだから。



 塔から降りる間に、エルは幾度もゼンが生きている可能性を考えた。



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