ラスト・ジョーカー



 ここまで言われてはもう隠しておけない。スメラギはため息を吐いて言った。



「母が不老不死……のようなもので、解放してやりたいんだ」



 予想外の言葉に、芽利加は目を見開いた。


ゼン以外に、不老不死を手に入れた人間がこの世にいるとは思わなかったのだ。



 だが今、芽利加にとって大事なのはそこではない。



「では、局長は不老不死を求めるつもりはないのですか」



「不老不死は、始めから〈トランプ〉の研究対象ではない。

我々の言う『文明復興』とは〈裁きの十日間〉以前の文明を取り戻すことだが、そこに〈裁きの十日間〉の原因となったと言われる不老不死の研究は含まれていない」



 そんなことが聞きたいのではない、と、芽利加はくちびるを噛んだ。


そんなことは、〈トランプ〉局員になる前の研修のときにすでに聞いた。だが。



「わたしは、不老不死を手に入れたくて〈トランプ〉に入りました」


「……芽利加?」



 不老不死について調べているうちに、〈トランプ〉日本支部局長スメラギ・ローゼフィリアが不老不死を追っているという情報をつかんだから、芽利加はスメラギの下についたのだ。それなのに。



「それなのに、あなたの目的が『不老不死の母を解放してやること』だったなんて。……くだらない。がっかりです」



 心底呆れたという顔で言って、芽利加は左腕に抱えた書類の束の、一番上に乗ったものを右手に持った。



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