ラスト・ジョーカー



 エルに石を投げた女だ。

スメラギと一緒に見世物小屋に来ていた、名前はたしか――。



「……カルラ・フォード?」

「そうよ。久しぶりね、被験体L146号」



 涼しい声で呼ばれた名に、エルは眉をひそめた。



「ひ、けんたい……?」



 聞き返すエルに、カルラは当然のことのように頷いた。



「被験体L146号。わたしがつけた、あなたの名前」

「名前って……」



 そんな馬鹿げた名前をつけられた覚えはない、と言いかけて、エルは口をつぐんだ。



 覚えがない。――それはつまり、記憶を失う前のことではないのか。



「あの、『わたしがつけた』って、どういう……」



 おそるおそる問いかけると、カルラは呆れたようにため息をついた。



「本当に覚えてないのね。――あんたを作った人間のこと」



「あたしを、作った……?」



「ええ。あんたを異形にしたのは、わたしよ」



 さらりと放たれた言葉の衝撃は存外重く、エルは何も言えなかった。

それに構わずカルラは続ける。



「勝手に体をいじって悪いとは思っているけどね。わたしはこれが仕事だし。

今日は様子を見に来ただけだけど、明日からはわたしの研究に付き合ってもらうよ、L146号」



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