ラスト・ジョーカー



 握っていた手が離れて、エルは「ゼン!」と叫んだ。


砂嵐のなか目を開けてゼンの無事を確認しようとして、その瞬間、エルは腰を地面にしたたか打ちつけた。



「……っ」



 痛みに息が詰まる。


目が眩んで、すこし吐き気がした。


足に力が入らなくて、うまく立ち上がれない。



 ヒュッ、と、なにかが空気を切る音がした。


とっさに危険を感じて、エルは起こした体を再び地に伏せた。



 次の瞬間、砂煙を突っ切って、頭のすこし上を誰かの足が蹴った。


――伏せる前にはエルの首があった、ちょうどその位置に。



「あれ、はずした?」



 と、のんきな声をあげて砂煙の中から現れたのはウォルターだった。



 赤い髪の青年はエルを見て「よく避けたねー」と笑うと、

「でも、実は第二陣があるんだよね」

 そう言って素早く二撃目を繰り出した。



 今度は避ける間もなく、ウォルターのつま先が脇腹にめり込む。



「ぅぁ……っ!」



 肋骨に鈍い痛みが走って、骨の折れる嫌な音がした。


短い悲鳴を上げて、エルはその場にうずくまる。



 痛みにかすむ目を凝らして周囲をうかがうと、結界を張って芽利加と対峙しているゼンの姿が見えた。



(よかった、無事……)



 ほっと息を吐いたエルだが、よくよく見れば、ゼンの周りの結界の様子がおかしい。



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